茜奏の愚勇伝

閉鎖します。ありがとうございました。

【老人ホーム】Mさん

前は老人ホームでのアルバイトを通して、許せなかった利用者たちの話を書いたが、今回は1人の人物にスポットを当てようと思う。

 

今回は少しシリアスな話です。

(PV伸びないだろうな〜)

 

爺ことMさんは、よく喋る老人だった。

 

目が合うと話し始め、止まらなかった。

 

俺が施設を掃除している時は、ソファをどかして手伝ってくれたり、飲み物を奢ろうとしてくれたこともあった。

 

そこそこ元気な87歳の人……という印象だったが、この爺さん、なかなかに不憫な人だった。

 

それはある日、俺がいつも通り施設の掃除に励んでいる時、Mさんはいつも以上にご機嫌な様子で話しかけてきた。

 

M「今日な、娘が来んねん!」

 

Mさんはその日は朝から、施設の玄関前にあるソファに座って娘を待っていた。

 

そして午後の2時頃、Mさんの娘がやってきた。

 

M「おお、〇〇!」


娘「……」

 

娘はMさんを一瞥したあと、施設長に向かって、

 

娘「これが着替えでこれが洗剤です。あとは勝手にお願いします」

 

よく言えば手際よく、悪く言えば早く帰りたいと言った様子で淡々と荷物を渡し、そそくさと……実に2分くらいのスピードで済ませると施設から出ていった。

 

え……それで終わり!?

 

掃除中の俺はそこそこ驚いたものだ。

 

休憩中に看護職員に「Mさんの娘さん冷たいですね」という話を振ると、

 

職員「そりゃそうでしょ。Mさん、家族全員から嫌われてるもん」

 

俺「え、そうなんすか?」

 

職員「今は大人しいけど、昔は典型的なDV夫で、自分勝手で気に入らないことがあるとすぐに娘や妻に暴力振るってたらしいよ」

 

俺「……なるほど」

 

職員「茜くんは、そうなっちゃダメだよ」

 

やがて、正月が近づいできた頃ーー。

 

M「〜♪〜♪」

 

ご機嫌な様子で、山ほどの年賀状を書くMさん。

 

M「ははは、書く人が多くて困るよ〜」

 

そう言いつつも嬉しそうに、そして丁寧に1枚1枚に挨拶文を書いていくMさん。

 

 

職員「……あんなことよくやるよね。届きもしないのに」

 

俺「……え?」

 

職員「あれの宛先、ほとんど住所変更かお亡くなりになってくるから、施設に帰ってくるんだよ。私は伝えてるんだけど、すっかりボケちゃってるからね。毎年懲りずに書いてるんだよ」

 

俺「そ、そうなんですか……」

 

職員「毎年沢山の年賀状を出すけど、娘からも帰ってこないからね」

 

なんだか惨めな気分になってきた。


朝から待っていた娘は2分で帰るわ、どんなに年賀状を書いても一通も帰ってこないわ。

 

職員「いい?茜くん。年を取ってから優しくなっても手遅れなんだよ。Mさんがああなのは、人の扱いが雑だったせいだからね」

 

当たり前だが、老人ホームには色々な老人がいる。


廊下を歩けば、娘と息子に囲まれて歩く爺さんが目に入った。

 

娘「お父さん、元気してた〜?」

 

息子「ここの暮らしでなんか不便なことある?足りない物があったら明日持ってくるよ!」

 

老人「ありがとうねぇ、足りない物は話し相手かな〜?」

 

娘「あはは、今夜は美味しいとこ予約したから、食べに行こうね」

 

なんて、家族からめちゃくちゃ愛されてる爺さんも当然いる。

 

そう言った光景を見た後に、玄関を眺めながら1人で立ち尽くすMさんを見ると、どことなく哀愁が漂っているように感じる。

 

同じ老人でも、ここまで違うものなのかと驚愕した。

 

今回のブログを通して何が言いたいかって言うと、孤独な老後を送る覚悟があるなら、人を雑に扱えばいいし、そうでないなら人を大事にしようという話だ。

 


……あれ?初めてじゃない?このブログでこんな真面目なこと書いたの。